【柏】麗澤中学・高等学校 SDGs研究会「EARTH」徹底解剖!~②SDGs研究会「EARTH」発足編

【柏】麗澤中学・高等学校 SDGs研究会「EARTH」徹底解剖!~②SDGs研究会「EARTH」発足編

麗澤中学・高等学校のSDGs研究会「EARTH」について、顧問の瀧村先生にインタビューした特別企画。

第2回の今回は、「EARTH」発足の経緯や普段の活動についてお話を伺いました!

★第1回「顧問・瀧村先生紹介編」はこちら

「EARTH」の発足~フェアトレードコーヒー販売を行う意義

―SDGs研究会「EARTH」は当初校内の生徒有志によって、レモネードスタンドの活動から始まったとのことですが…

瀧村先生:
ことの発端は、当時中学3年生だった一人の女子生徒が始めた活動でした。
彼女は、英語の教科書に載っていた、小児がんを患った女の子がレモネードスタンドの活動をしていたエピソードを読み、「自分もやってみたい」と思ったそうです。

まずはとても少ない人数で、この学校内でレモネードスタンドを始めました。最初は周囲からも「あの子何してるんだろう?」という若干冷ややかな目で見られることが多かったんですが、徐々に回りの生徒が参加しはじめ、さらにそれを見た周囲の大人たちも加わり、活動は少しずつ盛り上がっていきました。

そんなとき、最初の発起人となった女子生徒から「(レモネードスタンドで募金してもらった金額を)全額寄付できないのはおかしいんじゃないか」と疑問を投げかけられたんです。
当然、レモネードを販売して得た代価の中には原価が含まれます。それを差し引いた金額を寄付するという仕組みです。
大人にとっては当たり前と思える寄付の形ですが、そんな大人たちの常識を覆す十代ならではの考え方をぶつけてきたんです。

―我々大人にはそういう視点はないですもんね!

瀧村先生:
普通なら「仕方ないよね」で片付けられてしまう。でも私には、それが次の世代の人たちの、今までの常識をぶっ壊す価値観に思えました。
周りからも称賛され始め活動も上手くいっている中で、その生徒だけは唯一その点が引っ掛かったまま悩み続け、どうにか全額寄付できる仕組みを模索していました。

全額寄付できる仕組みを一緒に考える中で、まず私は「フェアトレードコーヒーというものなら提案できるよ」とアドバイスしたんです。
もともと私には「教育でコーヒーの世界を変えていきたい」という志もありましたし、フェアトレードコーヒーであれば取引量が増えれば増えるほど社会貢献できます。
フェアトレードコーヒーの販売というものと、レモネードスタンドの収益全額寄付というものを掛け合わせることができれば、うまく循環させていくことができるんじゃないかと提案をしました。

学校内におけるレモネードスタンド活動

学校内におけるレモネードスタンド活動

生徒オリジナルデザインのドリップバッグパッケージ

生徒オリジナルデザインのドリップバッグパッケージ

ビジネスモデルとお金の使い方を考える

瀧村先生:
それに加え、生徒には最初のミッションとしてビジネスモデルを作ってみるように言ったんです。

―社会人にとってもかなり難易度の高いミッションと思えますが…!?

瀧村先生:
普通は高校生には言わないですよね。しかも当時彼女は中学3年生でしたので、当然最初はビジネスモデルが何かも知らない状態です。なので、まずはビジネスモデルについて書かれた本を渡して、「よく読んでやってごらん」と託してみました。
私がやりたかった教育は、「あなたの活動がどういう風に世の中に対する貢献をして、どんな循環を生み出すのか考えてほしい」というものでしたので。

そもそも私が教育とコーヒーを掛け合わせたかった理由のひとつが、大学生で起業したとき、それまでの教育課程で学んできたことがひとつも生かされないと痛感したことだったんです。学校教育で学んできたことが、いざ実際の社会で自己実現しようとするときに何も使えないじゃないか、と。
もちろん、広く学問を学ぶということにはとても意味があるとは思っています。が、学校って、起業教育や金融教育というものを本当にやりたがらないんですよ。
今はちょっとずつ幅が広がりつつあるようですが。

―「お金を稼ぐこと」=「卑しい」というイメージがまだ根深くある気がしますね

瀧村先生:
やはりまだ世の中には「お金は汚いもの」「お金を稼いでいる人たちは悪い人たちだ」という価値観が残っている気がします。私はそれがすごくおかしいと思っていて。
生徒たちには正しいお金の稼ぎ方、お金の使い方、そしてお金の価値について学んでほしいと考えたんです。
実際に生徒が自分たちでお金を扱って、自分たちでビジネスモデルというものを作ることができれば、とても教育的意義が大きいんじゃないかと思いました。

最近世の中で言われはじめた、アントレプレナーシップ教育(起業家教育)というものを私も常に念頭に置いています。起業力というものは、課題解決能力につながると思っているんです。

そうして生徒自身がビジネスモデルを作り活動がスタートしたことが、「EARTH」という有志団体発足のきっかけになりました。

―ビジネスで世界を良い方向へ変えられるんだ、というメッセージを中学生・高校の教育から取り入れていくイメージですね

瀧村先生:
そうですね。ソーシャルビジネスって最近よく耳にするようになりましたし、世の中のニーズもそちらに向いています。どうしてもお金を度外視して考える社会貢献に個人的には違和感を持ってしまいます。
私は学生時代まったくボランティア活動はやってこなかったんですが、なぜやらなかったかというと、(今の日本にある一般的な「ボランティア活動」の多くは)子ども用に造られたものなんですよね。美化されまくっているというか。

―たしかに、生徒さんたちの側から自発的に課題意識を持ってスタートするものはあまりないですね…

瀧村先生:
加えて、そこでいくらのお金がどう動いて使われているかも生徒たちの側からは不透明なんです。
だからこそ、枠組みからお金の使い方まで生徒たちがちゃんと考えて立ち上げたものであれば、教育的意義が大きいんじゃないかと思っています。

SDGs研究会「EARTH」普段の活動の様子

SDGs研究会「EARTH」普段の活動の様子

「EARTH」は自分自身を発見する場

―そんな経緯で発足した「EARTH」は、2020年に部としての新設されてから一年余りで現在既に部員70名以上が在籍する規模になっているそうですね。それだけの人数が集まってくるというのは、やはりこういった取り組みに興味を持つ生徒さんが多いということなんでしょうか?

瀧村先生:
私も正直びっくりしています。入りにくい部活だとは思うんですよ…。
というのも、「EARTH」では入部に際して希望者にまず履歴書を書いてもらっています。「EARTH」で何をしたいのか、どういう想いを持って入部したいのかを大事にしてほしいんです。
それは一人一人それぞれ違っていて正解はないんですが、その想いを潰さずに広げていくことが活動の目的だと思っています。

―「EARTH」の組織図を拝見すると、企業のように部署が分かれていて分業制をとっていますよね。こちらもビジネスの感覚を身に付けてもらうことの一環でしょうか?

瀧村先生:
そうですね。
私が活動の上で大事にしている3つの要素が、「人」「場所」「お金」です。私の経験則からもこの3つが揃っていればアクションを起こせると思っています。

まずはこの「人」の部分についてですが…正直、仕事って一人でやった方が早いんですよ。でもあえてそこを、他者を信頼して頼んでみることが大事。一人でできそうなことでも、大人数の仲間とでしか成し遂げられないこともある。
私もかつて(学生時代に)起業して共同経営をしていた頃、支えてくださった方がたくさんいました。本当に数えきれないほどの方に感謝しています。その人たちがいなかったら今日私はこの場所にいなかったと思います。
価値観が違う人とでも、話し合って議論して、その中でブラッシュアップしていってひとつの答えを出せる。その過程はすごく大変なんですが、それをやってほしいという思いがあり、会社のような組織にしています。

そして、入部した理由も生徒によって異なります。
人前で話すのが得意な子もいれば、目立つことがまったく苦手な子もいます。普段教室で積極的に手を挙げたり発言したりするタイプではない子も、「EARTH」の活動を見て「面白そう」「かっこいい」と思って入ってきてくれます。

―「自分もここだったら何かできるかも!」という気持ちになってくれているのかもしれませんね

瀧村先生:
私はそういう個性を大事にしたいんです。
なので「メディア広告」「経理」「環境事業」という3つの部署を作っています。

たとえば経理部。
お金を扱う部活動なので経理部は欠かせない存在で、ここは年間収支報告書なんかも作るかなり本格的な部署です。そして、そういうことにすばらしく特化した生徒がいるんですよ。お金の計算だけは絶対に一円たりとも間違えないとか、管理しているレシートを一枚も失くさないとか。私は絶対できないんですけど(笑)。

そういう生徒が輝ける場所があると、そこが彼らの居場所になっていく。そしてそういう居場所があると、「自分の強みで戦うことができれば仕事って成り立つんだ」ということに気付けるんです。
まだ世の中全体的に「オールラウンダーになって社会に出ないといけない」という思い込みがありますが、私には誰しも得意な分野があって、それを武器に戦えばいいと思っています。

―普段の学校生活を送る中では発掘されなかったかもしれない「自分ってこんなことが得意だったんだ!」という気付きにもつながっているんですね

瀧村先生:
その通りです。
それに加えて、組織として活動する大変さ、大切さ、集団だからこそ飛躍できるという意味の深さを伝えたいです。

そしてもうひとつ重要なことは、「継続させること」です。
私自身ボランティア活動の経験がなかったので、顧問になるに際しいろいろなことを調べたんですが、そこで多くの学校におけるボランティア活動が単発で終わってしまうことを知りました。
やりたいと思った生徒がいても、その子やその集団だけで完結してしまって、次の学年へ引き継がれないんですよね。
たとえば、「クリーン活動で海をきれいにしました!」と言っても、そこで一度きれいになった海はまたすぐ汚れてしまう。結局すべての活動は継続的でないと社会は本質的に変わっていきません。

だからこそSDGsの掲げる「持続可能」という考え方にフォーカスし、「どうやったら活動を継続できるか」と考え、部活動にすることで横のつながりだけでなく縦のつながりを形成することにしました。
そうすることで活動に幅と深さが生まれ、継続につなげていくようにしています。

まさにフェアトレードコーヒー販売の活動は、継続できたからここまで広げることができているなと実感しています。
そのご縁で東ティモールの大使に来校いただきました。
これは、活動が単発だったら決して実現し得なかったことだと思っています。
そして、より多くの人にフェアトレードコーヒーを届けるためには、今活動するだけでなく、その想いを次の世代が継承していくことが大事だと痛感しています。

集合写真。現在は更に増えて70名以上に

集合写真。現在は更に増えて70名以上に

東ティモール大使来校時の様子

東ティモール大使来校時の様子

会議を通して学ぶ本当のコミュニケーション

―部員は中学1年生から高校2年生までとのことですが、私の個人的感覚では中1と高2だと精神的にも成熟度に相当開きがあると思えます。そのことは「EARTH」の活動にどう作用しているのでしょうか?

瀧村先生:
高校生にとっては「自分より年下の後輩をどう育てていくか」という観点で、中学生は先輩である高校生を見ながら「自分だけじゃ実現できないことも先輩がいるからできる」という可能性を感じながら活動しています。
そして中学生が活動に加わっていることで私が一番良かったと感じているのは、彼らが空気を読まないことです。もちろん良い意味で、です。

これは普段の授業においてもそうなんですが、高校生の授業って静かなんですよ。それは彼らがもう世の中に順応し始めているからなんです。でも中学生はまだその感覚があまりない。

「EARTH」で会議をしていても、どう考えてもおかしいことを、中学生は「おかしい」と言えるんです。高校生になると、タイムリミットやスケジュールのことを気にして妥協してしまったりする。その仕草はもう大人と一緒なんです。でも、それでは学生にしかできないことや、「EARTH」の部員がやっている意味が薄くなってしまう。できることの幅が広い高校生と、思う存分自分たちの想いをぶつけてくれる中学生、どちらも必要な要素です。お互いが貢献し合い活動しています。

―企業として考えたらまさに理想の組織ですね! 「空気を読まない」って時としてとても大事ですよね

瀧村先生:
まあでも、(空気を読まない人は)少ないですよね…。私も割と空気を読まない人間なんですが、自分自身でも変わっていると思っていました。
子どもの頃は「大人の言うことを聞いて、敷かれたレールに沿う人生を歩んだ方が評価される」と思っていて、ずっとそんな自分を隠してきたんです。それが「普通」だと思っていたので。

―先ほどお話しいただいた教育採用試験のときもそうでしたね

瀧村先生:
そうですね。
そんな隠し続けてきた自分が、コーヒーでつながった人たちとかかわっていく中で爆発して、殻を破った感じです。「ああ、自分を出していいんだ」みたいな。「個性って認められるべきもの、才能なんだ」と。
私はそこから人生が変わったので、やはりそれを生徒たちにも伝えたいです。「空気を読む」ことはもちろん良い面もあるんですが、自分の意見を発信できるというのはそれとは別です。

それと、もうひとつ。私は出会った人に必ず「自分がどう思うか」「自分はどういうことがしたいのか」を伝え続けてきました。そうすると、伝えた相手がその先の人生のどこかで「そういえばあのとき瀧村あんなこと言ってたな…」と思い出して、誰かを紹介してくれたりするんです。「空気を読まない」ことはそういうチャンスにもつながっているんだということも、生徒には伝えたいですね。
すばらしいアイデアをみんなで「いいね!」と言い合える環境にしたいんです。
これは先ほど私が大事にしている3要素のうちの、「場所」につながってくるんですが。

―今の世の中、相手を傷つけずに自分の意見を主張したり、建設的に議論や討論をしたりすることについては、まだ教育現場の体制が整っていないようにも個人的には感じます。「EARTH」のように中1から高2までの幅広い年次の生徒さんが議論しなくてはならない場でも、そういうことを感じたりしますか?

瀧村先生:
それはありますね。これは私も実際活動を始めてから気付いたことなんですが、彼らは会議というものの進め方を知らないんです。
というか、考えてみれば、そもそも人生において会議のやり方を教わる機会ってなくないですか?

―言われてみればそうですね…社会人になってなんとなく流れで覚えていくというか…

瀧村先生:
だから私はまず必ず生徒に会議のやり方をレクチャーします。
集まって話すということ自体ももちろん大事なんですが、「何をどうすればいいのか」というHOW TOの部分をある程度スキルとして身に付けさせると、みんな自然と言葉で語れるようになってくる。そして同時に相手の意見もよく聞けるようになるんです。
「何が論点なのか」、「どういう風に進めていけば会議になるのか」、そして一番は「何が決まっていれば会議終了になるのか」という。

よくありがちなのが、「あんなことやりたい」「こんなことも面白そうだね」というアイデアや意見だけ出して終わってしまうパターンで、「次回までのToDoは?」「いつまでに何をすればいいの?」「次の目標は?」という話が何も決まっていないんです。
なので、慣れるまでは私の方で議事録のフォーマットを作って、その項目を埋めていけばある程度「会議」ができるようにしています。

そういう風に枠組みができてくると、話の中身も伴ってくる。するとそのうちに、直接話さないと相手の感情が読めないということに気付きます。
今私が危惧しているのは、ICT(ネットワークを活用したコミュニケーション技術)が発達しすぎて直接会わずとも言葉で会話ができてしまうため、コミュニケーションがとれた気になってしまうことです。でもそれは結局、相手が本当にどう思っているかまでは読み取れていないんですよね。

特に思春期にある生徒たちは我々大人が思う以上に情緒も感情も起伏が激しくて、それによる衝突はよくあります。
しかし、「私が言ったことについて相手はきっとこう思っている」と相談してくる生徒に、「それって直接確認したの?」と尋ねると、「直接話してはないけど、文面からそう読み取れます」という答えが多い。
それに対しては、「じゃあまずは直接話してごらん」と言うようにしています。他人と何かをするということは大変でもあるけれど、そこでしか得られないものもあることを伝えます。
それから改めて私が入って三者で話してみると、たいてい相手の意図は言われた方が想像していたものとは違っているんです。
そこから「じゃあこうしていこうよ」というポジティブで建設的な話に持っていけるので、普段からきちんと言葉で語って、相手に何を伝えるべきなのか整理していくことは、私も大事にしています。

自分の考えをきちんと言葉にして伝えられないと、課題解決のための議論ができません。なので、それを可能にするためのスキルアップの術を教えることは「EARTH」の活動の中で重視しています。

闊達な議論が次々と新しい取り組みにつながっています。

闊達な議論が次々と新しい取り組みにつながっています。

最初はたった一人の女子生徒さんの強い気持ちから始まった活動が、今や学校の中外を問わず多くの人の共感を集め、ここまでの規模に成長していることに驚きました。
それは、「継続こそが重要」、「後の世代へと継承していくことでしか根本的な変革は起こせない」という瀧村先生の教育に対する揺るがぬ軸と共鳴したからかもしれませんね。

次回は最終回の第3回。
今回ご紹介したSDGs研究会「EARTH」について更に深掘りしつつ、新たな試みについてもお伺いしてきました。

お楽しみに!

麗澤中学・高等学校

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まちっと編集部ナタリー・ティエン

「まちっと」コンテンツプロデューサー。三度の飯と酒をこよなく愛する、ソロ活の求道者。宝くじが当たったらラム酒の風呂に入りたい。三千世界の酒場を巡り、いつか運命の一杯と相まみえる日が来ることを願ってやまない夢見がちな三十路です。よろしくお願いします。

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