麗澤中学・高等学校のSDGs研究会「EARTH」について、顧問の瀧村先生にインタビューした特別企画もいよいよ最終回。
第3回の今回は、前回の記事でご紹介したSDGs研究会「EARTH」の発足から数年、コロナ禍を経験した現在、そして今後のビジョンについて伺いました!
★第1回「顧問・瀧村先生紹介編」はこちら
★第2回「SDGs研究会『EARTH』発足編」はこちら
部活動である意味、SDGsをテーマにしている理由
―お話を伺っていると「SDGs研究会」という名前を冠しているはいるものの、もはやひとつのビジネス集団であるという印象を受けました。SDGsに関する活動をメインテーマに据えつつ、ビジネスで世界を変える練習をする場、というか。
そういう部のあり方というものに生徒さんも惹かれて入部しているのではないでしょうか?
瀧村先生:
そうかもしれませんね。
私が新入生向けの説明会で必ず言っているのは、「EARTH」は「『やってみたい』が叶う場所」であるということです。目には見えるものではないけれど、それは私にとっての「EARTH」のテーマでもあります。
おっしゃる通りで、SDGsはもちろん大事なことではありますが、私たちはSDGsのためだけに活動をしているわけではありません。
人は誰しも、自分のやりたいことが叶うのであればやってみたいと思うものです。
ではなぜ多くの人が子どもの頃に持っていた夢を諦めてしまうかというと、できないと思ってしまうからです。
当然、できないことも世の中たくさんあります。たとえば、サッカー選手になりたいと思っている子が全員サッカー選手になれるわけじゃないですし。
でも、ひとつでも自分のやってみたいと思ったことが叶う場所が学生生活の中にあるのであれば、私だったら入りたいと思います。
そういう場所を作りたいと思ったことが、「EARTH」を立ち上げた本当の根本の理由です。
そして、それを部活動という形にした理由についてですが…。
まだ世の中にはボランティア活動や社会貢献活動というものに対する冷めた視線があります。すごく頑張っているのに評価されないという子たちがたくさんいました。
人間は自分が知らない、理解できないものについて、異端というカテゴライズで片付けてしまう傾向があります。特に今の日本人には、まだその手の多様性に対する耐性がない。
そういう現状を目の当たりにしたときに、こんなに頑張って自分のやりたいことを叶えている子たちがきちんと評価され、賞賛されるような場を作りたいと思ったんです。
だからこそ、ちゃんとした部活動という組織として機能させること、そしてそれが可視化される何かがほしかったんですよね。
実は部になる以前の有志団体だったときにはSDGsという言葉は使っていませんでした。
私はSDGsを「世界共通のメガネ」だと捉えています。
SDGsは、今までもこの世界にあった問題を改めて整理したものです。それによって、今まであまり関連がないと思われていた社会課題…たとえば「海洋環境問題」と「商品の付加価値」が実はつながっている問題だということが分かる。
SDGsというフィルターを通すことで、それまで別々の問題に興味や関心を持っていた人たちがつながり、集団になることができます。そういう意味でSDGsという考え方には大きな価値があると思っています。
そして、「EARTH」に所属していない生徒も、SDGsというフィルターを通し、活動している生徒たちがどういうことをしているのか理解できるんです。
そうすることで、活動に取り組んでいる子たちが報われる環境が作れると思いました。
「トレードオフ」から学ぶ本当のサステナブル
―私自身も最近になってやっとSDGsについてきちんと勉強しはじめ、それを通して世の中を見ることで、一見平穏に暮らしている日常生活にもあらゆる課題や辻褄の合わないことがあるのだと実感しています。生徒さんの中からもそういう気付きの声は上がっているんでしょうか?
瀧村先生:
とても多く聞こえてきます。
私がこの顧問をしていて面白いと思うのは、トレードオフの考え方についてです。
たとえば、今「EARTH」では「ヌードル&カフェMEN−OH」(柏の葉キャンパス駅近く、KOIL LINK GARAGE by MITSUIFUDOSANに今年オープン)さんをプロデュースしています。
そこで単にお店自体のことを考えたら、経済発展を優先し、便利であること、おいしいことを追求していけばいいのですが、そればかりを求めすぎると、一方で環境に対する配慮が阻害されてしまう場合があります。
ひとつの問題だけを解決しただけだと、他の問題を放置することにつながってしまうんです。
「EARTH」では、隣のグループで取り組んでいることが、結果として自分たちの取り組んでいる活動にとってマイナスに働くことがある。そこで議論が生まれます。「ではどうやったらお互いにWin-Winな関係を築けるのか」と。とてもレベルの高い話なんですが。
―それは大人でもできない人がほとんとじゃないですか!?
瀧村先生:
まさにそうなんですが、生徒たちにとってはすべて自分事なので、自分が解決したい問題を相手のそれと擦り合わせるという、とても貴重な機会になっています。
そういった面でも、この活動が一辺倒なものにならなくて本当に良かったなと思っています。
もしフェアトレードコーヒーの活動のみをしていたら、相当なスピードで発展はしていったでしょうが、最終的に蓋を開けてみたらいろいろと不具合が出てきてしまって、全然持続可能な仕組みにはなっていなかったと思います。
―今の社会ではまだ「それって本当にSDGsなの?」と疑問に思う企業や団体の取り組みも多い中で、中高生の頃からそこまで深く学べるのは、本当の意味でSDGsを世に根付かせたいと考えている瀧村先生が顧問としていらっしゃるからかと思います。ことの発端はコーヒーの2050年問題だったとのことですが、それを機に他の問題にも目が向くようになったということでしょうか?
瀧村先生:
本当にそうなんです。
この3年間でとにかくたくさん勉強をしました。なぜかというと、みんな言っていることが違うからです。今まで良いと思われてきたことが実はそんなに良くないということが分かったり、勉強すればするほどいろんな価値観や意見があることが学べます。
なので、私の観点からも生徒には意見やアドバイスをしますが、それはあくまで一意見でしかないことは伝えます。
私の役割はどちらかというと、彼らと外の世界の大人とをつなぐことだと思っています。
ちょうど今、フェアトレードの紅茶の企画が新しく始まっていて、9月にも商品化が予定されています。生徒の中に、「コーヒーだと同世代の中には飲めない人もいるので、紅茶の商品を作りたい」という子がいたんですが、私は紅茶の知識はまるでないので、紅茶を専門にしているプロを招いて、その方と直接話しながらプロジェクトを進めていこうということになりました。
そこで、地元・柏で紅茶のブレンドをしている方に来てもらい、一緒にオリジナルのブレンド紅茶を作ったんです。その前提として、紅茶の生産者が今置かれている状況もきちんと学んだ上で、自分たちだけの紅茶を作り、フェアトレードを推進しています。
「グローカル」の考え方でSDGsは自分の問題になる
―コーヒーや紅茶のフェアトレードといったグローバルな視点での活動を進めている一方で、先ほどお話にあった「ヌードル&カフェMEN−OH」さんのプロデュースや、地元のお祭り、イベントへの出店など、ローカルに根付いた活動もされていますよね。世界というマクロな視点と、地元からやっていくというミクロな視点との両方を持つことは、どういった理念に基づいているのでしょうか。また、どういう良い効果がありますか?
瀧村先生:
個人的に、最近「グローバル」という言葉が広がりすぎている印象は受けています。
私は、「グローバル」とは英語を勉強することではなく、どちらかというと日本語を勉強することだと思っています。私は全然英語は話せないんですが(笑)、以前英語がペラペラ話せる同行者と海外に行った際、私の方が現地の人と会話ができていたんです。
私は何を相手に伝えたいかが決まっていたからです。英語が使えるからと言って、話したい内容がなければ役に立ちません。
私の拙い英語でも、話したいこと、話せることをちゃんと持っていれば相手に伝わったという経験から、本当の「グローバル」というのは「ちゃんと自分の身近なことを考えているかどうか」なんだと実感したんです。
なのでSDGsについても、「グローバル」とは「ローカル」から考えるべきだと思っています。最近「グローカル」という言葉も出てきましたが、私はそれをすごく大事にしています。
SDGsに掲げられている17の目標を本当に自分の問題として考えるためには、実際に自分の目に見えるものに落し込まないといけないんです。
たとえば1番目の目標である「貧困をなくそう」についてですが、世界のどこかで深刻な飢えに苦しんでいる人たちに思いを馳せても、それを直接自分のこととして捉えるのは相当難しいですよね。
目の前の、自分の手の届く半径1.5メートルの範囲にいる人たちを救えなければ、地球の裏側にいる人たちは救えないんですよ。
なので、まずは物理的な距離と心の距離をどんどん近づけることを意識しています。そういう意味でローカルな視点から活動を始めていってもらいたいな、と。
私が育ってきた柏や松戸という地域の中で、生徒たち自身が、自分の生活する拠点が変わっていくことが最終的にもっと大きな世の中を変えることにつながっていくのだという考え方を大事にしてほしいです。
コロナ禍のピンチはむしろチャンス
―「EARTH」が部活動としてスタートしたのが、ちょうど世の中でコロナ禍が始まった時期でしたが、生徒さんの活動のモチベーションに何か影響はありましたか?
瀧村先生:
大いにありましたね。
まず登校自体がなくなり、友達にも会えない。前代未聞の事態に、生徒たちは不安を抱えていました。
2ヶ月くらい空白期間はありましたが、生徒たちはみんなオンラインで連絡は取り合っていました。
しかし私は「これはチャンスだと思う」と言ったんです。これは試されているんだと。
だってSDGsって、本当に世の中この先どうなるか分からないじゃないですか、そんな分からない時代に耐えられるものでないのであれば、それはSDGsではないんだと。
「今家でたくさん考える時間があるのだから、これはチャンスだよ」と。
そしてこんな世の中でも通用するやり方を考え、それが証明できるのであれば、たぶんみんなこの先の時代を生きていけるし、社会で絶対活躍できるから、と。
あのときのことは私もよく覚えていて、この時代を経験した生徒たちは将来一体どうなってしまうんだろうと考えていました。
しかし、私自身のそんな不安を生徒に見せたら負けなんじゃないかと思って、あえて「このピンチはチャンスでしょ」という考え方を打ち出しました。
コロナ禍だからこそできること、活動を止めないために、それこそ「継続」というものをテーマにしていたので、それが大きな軸になったと思います。
今回、長時間に渡りじっくりお話を聞かせてくださった瀧村先生、本当にありがとうございました。
コーヒーと教育、それぞれに懸ける想いの熱さや重みがお話の内容や口ぶりからひしひしと伝わってきました。
若い世代から更に次の世代へと、世界を変えるムーブメントにつながる取り組みが、柏という土地から少しずつ広がり受け継がれつつあります。
まずは自分の手の届く範囲から行動や考え方を変えていく、本当の意味で持続可能なSDGsについて、まちっとでもこれから発信を続けていきたいと思います!
麗澤中学・高等学校
- 〒277-8686千葉県柏市光ヶ丘2-1-1
★この記事が気になったり、いいね!と思ったらハートマークやお気に入りのボタンを押してくださいね。
※記事に掲載した内容は公開日時点の情報です。変更される場合がありますので、お出かけ、サービス利用の際はHP等で最新情報の確認をしてください
この記事を書いたのは…
まちっと編集部ナタリー・ティエン
「まちっと」コンテンツプロデューサー。三度の飯と酒をこよなく愛する、ソロ活の求道者。宝くじが当たったらラム酒の風呂に入りたい。三千世界の酒場を巡り、いつか運命の一杯と相まみえる日が来ることを願ってやまない夢見がちな三十路です。よろしくお願いします。