繊細な華やかさを放つ万華鏡のように…。
「名前のない美術展」を訪れたとき、その儚い一瞬一瞬の美しさを追いかける、あるアーティストの作品に魅了されました。
万華鏡グラフィックアーティスト・藤山洳(うるお)さん。
その世界観にふれたいと思い、9月5日、ラコルタ柏「あ・えーるテラス」で開催された、洳さんの「万華鏡プロジェクター体験会」に参加し、お話を伺いました。
「洳」に込められた意味
Q:洳(うるお)さんというのはご本名では…ないですよね?
洳:はい。本名は鳥が食べてしまったんで(笑)。
Q:それは大変でしたね(笑)。お名前はご自分でつけたんですか?
洳:はい。自分は黒田官兵衛(かんべえ)という戦国武将が好きなんですが、官兵衛は晩年「如水(じょすい)」と名乗っていて――これは『老子』からきている言葉なんですが――官兵衛の考え方やスタンスが好きなのであやかりたいと思ってつけました。
Q:豊臣秀吉の軍師として活躍した人ですね。
洳:はい。でも、そのまま使うのはどうかと思ったので、いろいろ調べていたら、“さんずいに如く”という漢字があったので、これを使おうと。
Q:どんな意味なんですか?
洳:水に浸って潤う。訓読みはないのですが、誰かの人生を潤わせられたらいいなと思って、「うるお」という音をあてました。
Q:自分の作品で誰かの役に立ちたいという…?
洳:実は、今はそう気持ちはないんです。元々芝居をやっていたときの芸名で、自分が不登校だったときにエンターテインメントに助けられたので、自分が返す側になりたいと思っていました。
Q:いつ頃のことですか?
洳:23か24歳くらい。4~5年やっていました。
Q:今はやめてしまったんですか?
洳:はい。職業としてやっていくとなると、求められていることに沿って演じなければならない。でも、そのときは、その要求にとらわれすぎて、自分自身を見失ってしまったんです。もちろん、その時期に学んだことは確実に今の表現に活かされているので、大切な経験でしたが…。
周囲とのギャップに悩んだ子ども時代
Q:どんなお子さんでしたか?
洳:“はれもの感”があったと思います。みんな、面倒くさそうな…自分に触りたくないんだろうな、みたいな。
Q:触るとどうなっちゃうんですか?
洳:周囲に合わせる感じじゃなかったので…。
Q:例えば?
洳:小学2年生のときから男の子の恰好をして、「オレ」って言っていて。接しにくい子もいたと思います。あと、自分なりの正義感を貫こうとするところがありましたね。公園で女の子をいじめていた男子をやっつけて、先生に呼びだされたり…。
Q:いい加減にすませたくないみたいなところも?
洳:はい。数学では、方程式の暗記みたいなことができないんです。なぜこの理屈で成り立っているのかがわからないと頭に入ってこない。先生を質問攻めにしたら、「方程式を覚えて次にいくことも大事だよ」って。
URL: 【歌ってみたwith万華鏡アート】点描の唄 feat.井上苑子 / Mrs. GREEN APPLE
不登校とフリースクール
Q:学校に居場所はありましたか?
洳:中学のときに不登校になりました。日本では、その道にはまらないと社会で生きづらくなるように感じます。学校でも、その枠にはまらないと、はみ出し者になってしまう…。
Q:具体的なエピソードはありますか?
洳:制服が嫌いで。自分は今ではノンバイナリーという、男でも女でもない性別を自認していますが、中学のときは男の子になりたいという気持ちがあったので、女子の制服を着るのが、本当にいやで。「なぜ着なければいけないんですか?」「なぜ男女の制服が違うんですか?」と質問しても、誰も説明してくれないんです。「そういうものだから」って。
Q:不登校のときはどんなことを思っていましたか?
洳:多くの不登校の子たちもそうだと思うのですが、社会に出たくないわけじゃなくて、社会に出られない不安とか、どうしてうまくいかないのかという自我との折り合いが大変だったりするんです。でも、何とかしなくてはと思っている…。
Q:どうやってそこから脱出したのですか?
洳:フリースクールのおかげですね。「なんで?」をフリースクールでは否定されなかったんです。「確かに、なんでだろうね」と、向き合ってくれたことは大きかったです。実は「あ・えーる」を紹介してくれたミズさんは、フリースクールに通っていたときの先生なんです。
万華鏡との出会い
Q:洳さんは歌もうたわれていますが、万華鏡アートと歌では、どちらが先なんですか?
洳:歌の方です。元々歌が好きで、大学時代はアカペラのサークルに入っていました。でも、うまい方ばかりで、皆さんに追いつけなくて。自分が歌で活動することはないかなと思っていたのですが、ここ10年くらい自分なりに練習してきて、やっと人前に出してもいいかなと思えるようになりました。
Q:万華鏡の方は?
洳: 2年くらい前です。
Q:きっかけは?
洳:昔からステンドグラスのような世界観が好きだったんです。2年くらい前に、書店でキットが売られていてるの見て、プロジェクションもできるし、しかも、そこに何でも入れられると書いてあって面白そうだなと思って。
Q:万華鏡のアートはどのような思いで作っているのですか?
洳:ただ楽しくて作っています。予測ができない世界ですから。
Q:確かに!
洳:今回の展示のテーマは「フレームレス」なんですが、自分自身、社会の規範やこうあるべきという固定概念にとらわれやすく、自分で自分の行動や可能性を…縛ってしまうことがあります。作品についてもそういうところがあって、絵を描くにしても自分が想像しているレベルまで達していないと描きたくない。でも、万華鏡はそういう範疇を超えて、毎回驚きや発見があるんです。
Q:歌はどうですか?
洳:昔よりは苦しくなくなりました。それは、自分の技術が上がったこと、それと、ほめてくれる人がいることは大きいですね。万華鏡にしても詩にしても歌にしても、内面を出すことなので、初めはどう思われるのか不安だったのですが、よいと言ってくれる人がいるので、まだ自分が思っているレベルまで到達していないですが、次につなげようと思えるんです。
他者基準? 人とのつながり?
Q:詩はどんなときに書くんですか?
洳:鬱々したときですね。
Q:恋愛感情を赤裸々に表現した詩もありますよね。幸せの絶頂のはずなのに、どこか将来の不安を感じている…。不安ですか?
洳:不安になりますね。恋愛だけじゃなく、人に認められたいとか、人に求められたいとか、自分の存在を決めるのが他者基準なんです。
Q:他者基準…確かに常に気にしていると、苦しさも出てしまうと思いますが…?
洳:ただ、人との出会いが自分の肯定感をもたらしてくれるという側面もあるんです。
Q:人とのつながりということですね。
洳:はい。数年前までは人に好かれたくて、社会に溶け込みたくて、女子~って感じの洋服を選んで着ることも多かったのですが、今は自分が好きな格好をして、自分が好きなことをしたうえで認めてくれる人がいたら、その基準が一番いいなと思っています。それが一番うれしいですかね、今。
今後の活動について
Q:作品はどんな人に見てもらいたいですか?
洳:うーん。誰かのために届けばと思う瞬間も出てくるかもしれないですが、現段階ではとりあえず自分のために作りたいです。
Q:洳さんの詩を拝見していると、同じ体験をしているわけではないのに、グッとくるんです。“自分のため”が共感を呼ぶみたいな…。
洳:人のためにって、時として、上から目線で、押しつけがましくなってしまうことがあるように思います。自分のために作っていたら、共感してくれる人がいるかもしれないし、どこかで役に立つかもしれない……そんなスタンスでいいかなと今は思っています。今回の展覧会で不思議だったのは、「この人そこに共感するんだ!」って思うことがあって。
Q:万華鏡みたいに、予想しなかった展開があるわけですね(笑)。
洳:出してみるもんだなと(笑)。
終わりに…
水のように、しなやかに、時にエネルギッシュに。
万華鏡の刹那は、新たな美しさを生み出す多様性の一部。儚いようで無限。
様々に変化する瞬間の輝きをずっと見ていきたい…藤山洳さんはそんなアーティストさんでした。
↓↓洳さんのInstagramはこちら↓↓
URL: uluo_fujiyama
「名前のない美術展」
- 【会場】あ・えーるテラス
【住所】千葉県柏市柏5-8-12 ラコルタ柏(柏市教育福祉会館)1階
【開催期間】2022年8月1日~9月30日
【開館日時】月・水・金曜日の10:00~16:00
※9月19日(月・祝)と23日(金・祝)は休館。
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この記事を書いたのは…
「ちゃーりんぐ柏」代表石井雅子
柏生まれ柏育ち。編集者・箏(こと)奏者。市民活動家の両親が2015年前後に他界したことをきっかけに、柏に興味を持つようになる。2021年、柏の歴史スポットを自転車で巡る「ちゃーりんぐ柏」を立ち上げる(2022年市民公益活動団体登録)。2023年5月、補助金申請や情報発信、連携などをサポートする中間支援団体「ジセダイ歴史文化継承研究所」を設立、事務局長を務める。2024年8月柏に特化した観光会社「かしわグリーン観光社」を設立、代表を務める。