「SDGs」という言葉がようやく社会生活の中で日常的に語られるようになってきたのは、ここ数年のことであるという印象です。
実際にSDGsが国連サミットで採択されたのは2015年。
15年後の2030年までに、持続可能でよりよい世界を目指すため達成すべき17の目標について、実際にはどれだけの人が関知し、我が事として受け止めているのでしょうか。
世間でSDGsが声高に喧伝される今、私たち一人一人の本質的な理解や実践が求められています。
そんな中、東葛・柏市からイベント出店などを通じて積極的に活動を行っている、麗澤中学・高等学校SDGs研究会「EARTH」の存在を知りました。
通販サイトにて生徒さんがデザインしたパッケージのフェアトレードコーヒーのドリップバッグを販売する他、地元や近隣エリアで開催されるイベントでは淹れたてのハンドドリップコーヒーやレモネードを生徒さんたちが自ら提供。
最近ではラーメン屋さんのプロデュースまで手掛けるSDGs研究会「EARTH」とは一体どんな団体なのか。
そこで夏の某日、SDGs研究会の顧問であり、同校の地歴公民科教諭でもある瀧村尚也先生にインタビューを慣行してきました。
1時間を超える長丁場のインタビューの中で伺ったお話はすべてが興味深く、聞き手である私の価値観を揺さぶる内容だったため、特別企画として本日から全3回に分け、ほぼノーカットにて掲載いたします!
初回の今回は、柏・松戸エリアの地元人でもある顧問・瀧村先生をご紹介します。
コーヒーに目覚めた学生時代
―瀧村先生は松戸のご出身とのことですが…
瀧村先生:
私、松戸生まれの柏育ちなんですよ。
小学生のときに柏に引っ越しているので、どちらにも友達がいて、成人式は両方(の市)で出ました。
それぞれに故郷のような思い入れを感じていて、地元の意識が強いです。
―松戸と柏では、それぞれ好きなところは違いますか?
瀧村先生:
結構違いますね。
松戸は人の個性が全面に出ているイメージがあります。
「人に出会った」という経験は松戸がとても多いです。大学生時代に起業し、経営者として過ごしてきたのも松戸の街でした。そのときは松戸での人とのかかわりが強くて、そういった方とは今もつながっています。
対して、あくまで個人的な感覚ですが、柏はここ数年で都市開発が活発化し、将来的にも楽しみな街です。
―大学生時代に起業されたのは、どういった分野、経緯ででしょうか?
瀧村先生:
もともと私はコーヒーが大好きで、最初はアルバイトや見習いという形でかかわっていたんです。そのうちにバリスタの全国大会に出場するようなところまで技術を身に付けました。
そんなときにたまたま喫茶店で隣の席に座っていたのが自分でお店を開こうとしていた方で、声を掛けていただいたんです。
―すごい偶然ですね!
瀧村先生:
本当に偶然なんです(笑)。
たまたま友達にコーヒーのことを熱く語っていたときに「君おもしろいね」という感じで急に声を掛けられまして。共同経営とういう形で、いちプレーヤーとして参加させてもらいました。
そこから一気に自分の世界が変わっていきましたね。
お店の経営もしていましたし、個人事業としてもいろいろなことを経験しました。
たとえば、パーティー会場などに出張してコーヒーを淹れたりとか、コーヒーの講習会を開いてレクチャーをしたりとか。コーヒーにかかわる幅広い分野の事業を展開していました。
その中で様々な人とのかかわりが広がっていったんです。
―コーヒーへの興味・情熱はいつ頃から持ってらっしゃったんでしょう?
瀧村先生:
高校生くらいからですかね…。
たまたまお店で飲んだコーヒーに「おいしい!」と衝撃を受けたんです。
そのときになぜかふと「自分が淹れたらもっと美味しくなるんじゃないか」という考えが生まれまして(笑)。その頃は美味しくコーヒーを淹れる技術も持ってなかったんですが、「コーヒーの世界はもっと奥深いんじゃないか」と思ったんです。
で、気付いたときには会計の際にレジでお店の人にアルバイト志願をしていました。
―すごいフットワークの軽さですね! そのままそこで働くことに?
瀧村先生:
そのお店は高校生のアルバイトは募集していなかったんですが、結局雇っていただけました。
そこから働き始めて、最初は普通に楽しかったんですよ。でもあるとき、自分の感覚が他のアルバイトの子たちと違うことに気付いたんです。周りからは「一人だけすごい頑張ってる人」と思われていましたね。そこで、「自分のいる場所はここじゃないな」と。
その後大学生になり、「せっかくやるんだったら、本当に自分が一番好きな、美味しいと思えるようなお店でとことん技術を磨きたい!」と思って。
大学1、2年生の間はいろいろなお店を回って経験を積ませてもらいました。
教師を目指したきっかけ
―2018年に教員になられたとのことですが、そのきっかけは何だったんでしょうか?
瀧村先生:
もともと高校時代から教師志望だったんです。
―それはコーヒーにハマるのと同時並行するように…?
瀧村先生:
コーヒーにハマるより先でした。中学生時代の先生の影響が大きいです。
その先生は勉強しろとは言わず、常に「何がやりたいんだ?」という問いかけをしてきてくれる人で、そういう関係性の中で私なりに「この人みたいになりたい」と思ったんです。
と言っても、教師という職業そのものではなく、「この人の生き方とか考え方になってみたい」と。
それがきっかけで「教師になりたい」という、頑張って勉強して大学へ進学する理由が出来たものの、先ほど言ったとおりその途中でコーヒーに出会ってしまって、人生のレールが2本敷かれることになりました。
そんな中、実は大学生時代には一度コーヒーの業界で職に就くことに決めたんです。
でも、出場した大会で受賞して、周りから祝福されても、あんまり嬉しくなかったんですよね。
そのことに自分自身衝撃を受けて。「自分が求めていた場所はここじゃなかったんだな」と感じたんです。
そこで改めて自分の気持ちや考えを整理したら、私にとってコーヒーというのは人と人とをつなぐコミュニケーションのツールなんだということに気付いたんです。
もちろん味は追求すべきですが、私にとっては美味しいコーヒーを淹れた満足感よりも、自分がコーヒーにかかわることをした結果誰かが幸せになったり、誰かと誰かがつながったりしたという方が満足度が高い、幸せを感じる、ということを再認識しました。
その後もいろいろな方と出会ううちに、一杯のコーヒーの裏側にある生産者のこと、現地で頑張っている人たちとのつながりが見えてくると同時に、それが私の想像していた以上に大変なものだと知ったんです。
一番の転機になったのが、コーヒー業界の抱える「2050年問題」を知ったことです。
これは、2050年には世界で今飲まれているコーヒーの半分以上が飲めなくなるという国際的な研究報告です(※世界で消費されるコーヒーの約7割を占めるアラビカ種の栽培に適した土地が、気候変動の影響によって2050年には半減するという予測)。
私はそれを見て度肝を抜かれました。
私は一日にコーヒーを6杯くらい飲むんです。それぐらい生活に欠かせない飲み物でもあり、今やコーヒーはコンビニで1杯100円で買えるくらい身近な飲み物でもあります。
「それが、私が生きている間に飲めなくなってしまうかもしれない。いろんな人に美味しいコーヒーを飲んでもらえなくなる。これは死活問題だ!」と。
そこで初めて、世界で起きている問題が我が事になりました。
どうにかその問題を打開したいと思い、あらゆる事業展開や方法を模索し検討する中で、「教育から変えていくことが大事なんじゃないか」と思いついたんです。
私自身が何か行動を起こす以上に、この意識を次の世代につないでいかないと根本的な問題解決にはならない。だからこそ十代やもっと若い人たちにアプローチを掛けていきたい。
ならば、せっかくもともと教師を目指していたので、コーヒーと教育というものをうまく結びつけて何かできないかなと思って、あらためて気持ちを一新して教員になったんです。
―コーヒーと教育というものが、きれいに自分の中で結びついたんですね
瀧村先生:
私の中ではそうですね。
大事なものは全部コーヒーが教えてくれました。
でも、みんなにコーヒーを好きになってほしいというわけではなくて。私がコーヒーというコミュニケーションツールを通じて得た人とのつながりや価値観、視点というものを生徒たちには伝えていきたいんです。
まだ若くて経験も浅い自分がもっともらしい人生訓を述べたところで表面上だけの言葉になってしまうので…。でも、自分が実際経験してきたものは生きた言葉で伝えられるなと思って。そういうことを大事にしようと、教師になることを決意しました。
私、この学校(麗澤中学・高等学校)の採用面接時に、コーヒーのことしか語らなかったんです(笑)。
その他の学校では、採用されるために本当の自分を隠して教育現場での経験や指導法のアピールを話していました。でも、それで内定をいただいてもあまりしっくりきていなくて。
この学校で初めて自分自身を全部出して、大学時代の経験や、生徒に伝えたいことを好きなだけ話して帰ったんです。私としては「不採用だな…」と思っていたんですが、すぐに内定の電話をもらい、そのとき「自分を認めてくれたこの場所で働きたい」と思いました。
教育において大切についている考え方
―お話を伺っていると、教師を志すきっかけになった中学生時代の先生がされていた教育を、今の瀧村先生も引継いで実践されているのではないかいう風に感じます。ご自身でもそういう意識はありますか?
瀧村先生:
ありますね。
教員生活をやっていると迷うことや悩むことがたくさんあるのですが、そんなときには必ず私は原点に戻ることにしています。
一人一人違う生徒たちとのかかわりはまさに「なまもの」で、何が本当に正しいのかなんていくら考えても答えはない。
そういう正解のない問いに直面したときは、中学生や高校生だった当時の自分がしてもらったり言ってもらったらどう感じたか、という感覚を持つようにしています。だからたぶんどんどん(中学生時代の先生に)似てくるんだと思います。
今私の担任するクラスには33人の生徒がいますが、私の言葉がその全員に響くとは思っていません。
彼らが中高6年間の間に出会うたくさんの先生のうちの一人として、「ああこんな人もいるんだな」「この人の生き方かっこいいな、面白いな」と思ってくれる生徒が一人でもいて、将来「そういえば当時あんな風に人生楽しんでた人いたな」と思い出してもらえたらいいなと思って。
学生時代に異分野でのキャリアを経験したことから、教師である自分自身が多様性や可能性の一部であることを生徒さんたちに示し続ける瀧村先生。
そういった教育方針の「軸」が、普段の授業やSDGs研究会の活動における生徒さんたちの積極性を呼んでいるのかもしれませんね。
8月31日(水)まで、kamonかしわインフォメーションにて期間展示を実施中
そんな瀧村先生が顧問を務める麗澤中・高等学校SDGs研究会「EARTH」は、現在、柏駅直結のファミリかしわ内にある「kamonかしわインフォメーションセンター」にて企画展示を実施しています。
「EARTH」の生徒さんたちによる、活動紹介や、フェアトレードコーヒーのドリップバッグも販売中。
関連書籍も紹介などもあり、SDGsについて今一度学び直す、知識を深めるきっかけになりそうですね。
企画展示「今、私たちにできること」は、2022年8月31日(水)まで実施中です。
お近くの方はぜひお越しください。
次回、第2回はいよいよSDGs研究会「EARTH」について、その発足の経緯をご紹介します!
麗澤中学・高等学校
- 〒277-8686千葉県柏市光ヶ丘2-1-1
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※記事に掲載した内容は公開日時点の情報です。変更される場合がありますので、お出かけ、サービス利用の際はHP等で最新情報の確認をしてください
この記事を書いたのは…
まちっと編集部ナタリー・ティエン
「まちっと」コンテンツプロデューサー。三度の飯と酒をこよなく愛する、ソロ活の求道者。宝くじが当たったらラム酒の風呂に入りたい。三千世界の酒場を巡り、いつか運命の一杯と相まみえる日が来ることを願ってやまない夢見がちな三十路です。よろしくお願いします。