「0」で予告した通り、”パン好きを公言していて問われる質問”のなかで、比較的答えやすいパンに関するうんちく話シリーズ第一回目として、「パンの耳ってなんで『耳』って呼ぶの?」を書いていこうと思います。
まずは「パンの耳」と呼ぶもの、「パン」の中でも食パンだけですよね。これも面白いな(不思議だな)と思うことの一つです。
いわゆる「パンの耳」にあたるきつね色に色づいた部分は、よく考えるとコッペパンにもフランスパンにも、惣菜パンにも菓子パンにもあるのに、その部分を「耳」と呼ぶのは食パンだけです。
一旦それは置いておくことにしまして…そのいわゆる「パンの耳」とは、食パンの四方の端っこの部分。端っこをなぜ耳と呼ぶのか?それは言語学でメタファーと呼ばれる比喩の一種によるもので、一般的によく知られているものと類似していることから耳と呼ばれています。
一般的によく知られているものとは、人間の顔です。鼻が「顔の真ん中にあるもの」だとすると、鼻を中心に少しずつ真ん中から四方の端に向かって、目や口や眉毛があることになります。そして、私たちが「顔」と認識するものの一番端っこにあるのが「耳」ということになります。
この、顔における耳の位置関係と同じように、食パンの中心から見て一番端っこにある、四方の褐色の部分が「(食)パンの耳」と呼ばれるようになったのです。
問いの答えとしてはここまでなのですが、ここから派生して面白いな(不思議だな)と思うことのひとつが、冒頭で書いた食パンしか褐色の部分が「耳」と呼ばれないことです。
海外では、端っこのことは「耳」とは言わず「皮」と呼ばれることが多いようで、例えば英語では「Crust(クラスト)」と呼び、これは「外皮」のことを表す言葉です。フランス語でも「croûte(クルート、uの上に^が付きます)」で、これも「皮」や「表皮」を表します。
パンは日本人にとっては海外から受け入れた食べ物。その部位の名称について、日本独特の表現をするようになったのはなぜなのか、非常に興味深いですね。
また、全国各地で同じように「耳」と呼ぶことも面白いなと思います。端っこのことが「耳」ならば、例えば「縁(ふち、もしくは、へり)」とか呼んでもおかしくないと思いますし、ほかのものと隔てるものという意味の「壁」という表現が使われてもおかしくなかったとも思います。ですから、北のほうでは「パンのへり」と呼び、中部では「パンの壁」と呼ぶ、というように、日本内でも違いがあっても不思議はないのですが、そんな話はあまり聞きません。
パンの耳をなぜ耳と呼ぶのか。当たり前のように使っている言葉ですが、考えてみると面白いですね。
次回はもっと基本にかえって、あの食べ物をなんでパンと呼ぶのかを考えてみたいと思います。
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この記事を書いたのは…
パンコーディネーターAD福地 寧子
一日3食、年間1095食以上パンを食べ続けて四半世紀を過ぎたパン食人。パンの記事執筆、イベント企画、レシピ提案、講義登壇、メディア出演など、パンのおいしさと楽しさをより多くの人と共有すべく活動中。