柏在住のアコーディオン奏者・岩城里江子さん。
しなやかな演奏、くったくのない笑顔に、誰もがたちまち魅了されてしまいます。
岩城さんはこの3月に、星座と音楽のYouTubeシリーズ「星のことほぎ」全12作品を完成させたばかり。
そんなのりにのっている柏のアーティストを直撃しました!
大洞院の寺コン
Q:先日大洞院で開催された寺コンは桜も満開のなか、ステキでしたね! 笙とのコラボでしたが、笙とアコーディオンの音が似ているのにはびっくりしました。
岩城:どちらも金属のリードを使って鳴らしていますし、アコーディオンは笙がルーツともいわれているんですよ。
Q:どちらの楽器の音なのか、手元を見ないとわからないときもありました。
岩城:重なるように弾いていますが、そのように聞こえたとしたら成功ですね!
私がピアノに捨てられた…
Q:子どものころから楽器を弾かれていたんですか?
岩城:3歳からピアノを始めたんですが、父が転勤族で、ピアノの先生もその度に変わったので、「この人が求めるのはこの辺かな」とリクエストにこたえるのだけ上手くなり(笑)、受け身な演奏になっていました。
Q:ピアノはずっと続けていたんですか?
岩城:それが、大学受験に失敗したことで、「才能ないし、やめる」って言って…。結婚するときに、夫の家にあるグランドピアノを触ってみたら、鍵盤が重くて何一つ弾けなくて、自分が捨てたつもりのピアノに、私が捨てられてたんだって泣けてしょうがないことがありました。
アコーディオンとの出合い
Q:大学時代や卒業後もしばらく音楽はやっていなかったんですか?
岩城:はい。卒業後はリクルートに勤務しました。当時はバブル期で、イケイケで楽しい社風のなかで、2年間営業をやったあと、企画部で3年。でも数字の話とかがしんどくて、結婚とともにやめてしまいました。その後出産して、ママさんサークルを2つ運営していました。
Q:アコーディオンはいつから始めたんですか?
岩城:下の子どもが小さいときに、一緒にNHKの子ども向けのテレビ番組を見ていたら、アコーディオン奏者が出演していて、その演奏が楽しそうで、心が踊っちゃって…。すぐにNHKに電話しました!(笑)
音楽をやっていなかったのは“心の筋力”を鍛えるため!?
Q:その演奏者のもとで修行を?
岩城:結局、その方のレッスンは無理で、別な先生についたけど続かなくて。その後、若いトッププレーヤーにレッスンを受けたら、「趣味でやるならやめれば」と。「趣味と思った時点で趣味以上にはならないよ。始めるのが遅かったんだから、来た仕事は全部受けなさい、現場で磨くしかないよ」って言われたんです。
Q:めちゃめちゃ厳しいですね!
岩城:悔しかったんですよね…。「私はこんなもんじゃない」ってどこかで思っていたのかもしれない。それで、来た仕事は全部受けたんです、初めてこの楽器に触ってからまだ2、3年くらいでしたが。
Q:音楽に戻ってきたわけですね。
岩城:最近、ある人に言われたんです。18歳から30歳過ぎまで音楽をやっていなかったことを話したら、「きっとそのときにはまだ、音楽をやるための“心の筋力”が足りなかったんですね」って。ああ私はそれをリクルートやサークルで鍛えていたんだって思いました。
巡礼との出合い
Q:2018年には『あるきうた』という巡礼の本とCDを出されていますね。
岩城:その2年前に、40日間かけてスペインのサンティアゴ巡礼に行ったときのものです。通称「カミーノ」といって、800㎞を歩くお遍路なんです。この本とCDのジャケットは、美大生の次女に作成してもらったんですよ。
Q:ステキなCDですね! でも、40日間日本を離れるって、相当な覚悟がいりますよね?
岩城:ちょうど次女が大学に入ったところで、長女も仕事で金沢に行っていて、夫は単身赴任で、親も元気なので、今かなと。(笑)でも決めるまではすごく葛藤しました。
Q:歩くことによって、心境の変化などはありましたか?
岩城:「アコーディオンを弾いている」とか、「○○ちゃんのお母さん」だとか、そういった肩書がなくなり、楽器さえなく、ひとりの人としてこの道に置かれたときに、言葉もしゃべれない、何にもできない自分というのを見せつけられて、自分の価値観が揺さぶられました。自分自身をふりかえることになりましたね。
Q:究極の状況で、参加者はみな、自分をふりかえることになりそうですよね?
岩城:はい。体もきついですから、すぐにふりかえらざるを得なくなります。一回巡礼に参加した人はずっと巡礼者になるともいわれていて、その清々しさが癖になるというか…毎年行かれる人もけっこういるんですよ。実際、私も、このあと、熊野古道とか送り大師(※)とか、巡礼に興味が出て、CDまで作ってしまったという…。
※送り大師:正式名称「准四国八十八ヶ所東葛印旛大師巡拝」は、四国霊場を模した88の札所・13余の掛所を、5日間(5月1日~ 5日)かけて巡拝・巡行する行事として、200有余年、伝承されています。(同イベント公式サイトより)
自分を証明するためではない音楽を
Q:帰国後、変化はありましたか?
岩城:サンティアゴ巡礼で、みんなとご飯を食べてくつろいでいるときに、アコーディオンがあったら…と思ったことがあったんですけど、結局、それって、自分が何もできなくてみすぼらしいので、自分を証明したいだけじゃないかって思ったんです。
Q:何の証明?
岩城:“私もアコーディオン弾けるのよ”みたいな。でもそう思ったとき、アコーディオンに失礼なことをしちゃったな…証明するためだったらアコーディオンを弾かなくてもいいんじゃないかと思ってしまったんです。
また、その頃、バンドネオンというアコーディオンに似た演奏の難しい楽器も練習していて、帰国してすぐに発表会があったんですが、途中で止まっちゃうようなボロボロの演奏で…。
Q:そこからどうやって前向きに?
岩城:その頃、サンティアゴ巡礼に行く前から決まっていたイベントがあって…流山の「灯環(とわ)」さんというレストランなんですが、気持ちが落ち込んだまま演奏に行ったんです。ところが、音を出した瞬間、みんな顔が変わって、私も楽しくなっちゃって、めちゃめちゃ盛りあがったんですよ。
音楽って証明するとか、そんなちっぽけなことじゃなくて、もっと素晴らしいものなんだな…別の楽器をマスターしようとしなくても、このアコーディオンをやっていけばいいんだと、そのとき思えたんです。
「星のことほぎ」制作…境界線なんて、はじめからなかった
Q:昨年の4月から今年の3月にかけて、「星のことほぎ」の動画を制作されましたね。
岩城:一昨年、コロナ禍で自粛生活になってライブもなくなったので、ふと思い立って、知人に占星術を習い始めたんです。そうしたら面白くて。それで、春分から春分までの星座の話を音楽にしたいと思って、毎月ひとつずつ星座動画を仲間たちと作り始めました。
Q:何か星座の意味を実感するような出来事はあったんですか?
岩城:例えば、最後の魚座の《おくりうた》でピアノを弾いたことですね。
Q:《おくりうた》は私も大好きです。なぜそこでピアノだったんですか?
岩城:受験に失敗して才能がないと思ってやめたわけですが、才能があろうがなかろうか、弾きたかったら弾けばいいんですよね。「才能がない」と境界線をひいた瞬間に、私がやっちゃいけないことになっちゃったわけですが、それも全部自分の幻想だったんです。
Q:それが魚座のもつ意味と、どうつながるのですか?
岩城:魚座は12星座最後の水の星座なので、境界がない、境界すら溶かす星座という解釈ができるんです。境界線なんて、はじめからなかったんだと気づきました。
URL: 「星のことほぎ」#12魚座「おくりうた」
Q:自分を守るために見えない壁を作っていたということですね!
岩城:この曲は、アコーディオン・ギター・マリンバという、いつものパターンではもうYouTubeにアップしていたので、今回はピアノでやろうと。また、「子どもの声みたい」とからかわれてから歌うのもやめてしまったので、そのふたつに挑戦することにしました。
Q:ピアノや歌と久しぶりに向き合うという作業はいかがでしたか?
岩城:最初に撮影したとき、息が浅くてどんどん早くなってしまって、撮りなおすことにしたんです。そのとき、ピアニストの友人から「弾こうとしなくていいです。音を置いていくだけでいいですよ」とアドバイスをもらいました。
Q:歌についてはどうでしたか?
岩城:別の友人から「あごのところでコントロールするのをやめて、音程があってなくてもいいから、お腹のあたりで歌ってみて」と教えてもらって、苦しくならない声で歌ったら気持ちがよくて。これまで、自分の器以上のことをやろうとしていたんだなと。そう思ったら、急に力がぬけて、自分のために音を楽しみたいという気持ちになりました。
URL: 「星のことほぎ」オフィシャルサイト
「あなたのことほぎ」スタート。そして「星のことほぎ」CD発売。
Q:今後の目標は?
岩城:今月からSNSで「あなたのことほぎ」というプロジェクトを始めました。ある種の連想ゲームです。
例えば、今は牡羊座の時期なので、私の方で季節にも対応する牡羊座のキーワードをご紹介しています。それに対して各自で思いつくものを自分なりに表現して、ハッシュタグをつけて投稿してもらうというものです。表現しようとする第一歩になったり、皆さん同士の出会いのきっかけにもなったりするかなと。
他の人の作品を見るのもよいですが、自分で体感していく方が断然楽しいですし、イメージがふくらみます。どなたでも参加できますのでお待ちしております。あ、ぜひ、石井さんも投稿してくださいね!(笑)
Q:ますます星座シリーズが広がっていきますね。
岩城:もう他人に忖度しないで、やりたいことをやったらいいんじゃないかなと。
URL: 「あなたのことほぎ」フェイスブックページ
Q:ほかにもありそうですね?
岩城:毎月撮ってきた「星のことほぎ」動画の音源でCDを作って、ゴールデンウィークくらいに発売したいと思っています。星のことほぎ完成記念のささやかなCDです(税抜き1000円、送料別)。ジャケットは「さそり座」で出演してくださった大野隆司さんの版画なんですよ。
Q:大野先生も柏ゆかりのアーティストのおひとりですよね。岩城さんは柏についてはどう思っていらっしゃいますか?
岩城:私はこの街に育ててもらったと思っています。大野さんにも出会えましたし、いろんな人生の地盤を作ってくれました。あと、手賀沼も近いし。私は、水辺と空が好きなんですけど、某スーパーで買い物したあと、手賀沼の方まで行って夕焼けを鑑賞してから帰ることがよくあります。自然は大事ですよ。疲れたとき、自然からエネルギーをチャージできますから!
岩城さんを取材して…
いつも自然体で音楽を奏でていると思っていた岩城さんから、ピアノに対する葛藤の年月があったことをうかがったときは驚きました。
そして、インタビュー後に、意外にも、テンポが速くなってしまう“走り屋”でもあることも聞き、私(一応箏奏者です!)も走り屋であることを告げると、顔をくしゃくしゃにして「負ける気がしない」と断言されたのが印象的でした。
そんな岩城さんはどこに向かっているのかと問うと、「自由かな」と。
1年後の魚座では、どんな境界線を溶かしているか、これからも岩城さんから目が離せません!
「岩城里江子」オフィシャルサイト
「星のことほぎ」オフィシャルサイト
「あなたのことほぎ」フェイスブックページ
花井山 大洞院
- 【住所】千葉県柏市花野井1757
【電話番号】04-7132-5868
【Eメール】daitou@daitoin.net
【アクセス(バスを利用する場合)】
JR柏駅西口より東武バス5番乗り場「柏市立高校」「東急柏ビレジ」「柏たなか駅」行きのいずれかに乗り「花野井神社」下車、徒歩10分
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※記事に掲載した内容は公開日時点の情報です。変更される場合がありますので、お出かけ、サービス利用の際はHP等で最新情報の確認をしてください
この記事を書いたのは…
「ちゃーりんぐ柏」代表石井雅子
柏生まれ柏育ち。編集者・箏(こと)奏者。市民活動家の両親が2015年前後に他界したことをきっかけに、柏に興味を持つようになる。2021年、柏の歴史スポットを自転車で巡る「ちゃーりんぐ柏」を立ち上げる(2022年市民公益活動団体登録)。2023年5月、補助金申請や情報発信、連携などをサポートする中間支援団体「ジセダイ歴史文化継承研究所」を設立、事務局長を務める。2024年8月柏に特化した観光会社「かしわグリーン観光社」を設立、代表を務める。