あるときはStudio WUUでタップダンサーとライブ、またあるときは柏が誇るチョコレート専門店のPV動画のBGM、またあるときはパレット柏で防災絵本の朗読の伴奏、そして、最近では旧吉田家住宅の土間コンサート…。
柏だけでも、様々なイベントに登場しているジャズピアニストでありボーカリストである松下聖哉さん。
ジャズ界においては大御所と堂々と渡り合う演奏をくりひろげ、さらに、私にとっては、編曲を教えていただいている先生でもあるという…。
様々な顔をもつ弱冠24歳のピアニストの素顔とは?
旧吉田家住宅土間コンサートを終えて
Q:先日(5月14日)の旧吉田家住宅での土間コンサートはいかがでしたか?
松下:室内の土の上で演奏をおこなうことって、ふつうはないですよね(笑)。野外でもコンクリートの上か芝生の上にステージがほどこされているので。国の重要文化財で演奏させていただき、たいへん貴重な体験をさせていただきました。
Q:歌声が空間に広がって吸収される感じで、響きが心地よかったです。
松下:音楽を演奏するうえでもいい会場ではないかと思いました。
文化課さんより…
土間コンサートの開催は今回で11回目。
柏市教育委員会 生涯学習部 文化課によると、「日本家屋という特別な空間の中で、柏ゆかりのアーティストを多くの方々に知っていただけるように、様々なジャンルのコンサートを企画していきたい」とのこと。
今後もどんなアーティストのコンサートが開かれるのか、楽しみですね。
↓↓旧吉田家住宅でのイベントについては、前回の記事でも書いております。ぜひご覧ください↓↓
URL: 【柏】ウクライナで抑留生活を送った画家・木内信夫作品展、旧吉田家住宅で開催
まじめな?子ども時代
Q:松下先生は柏育ちということですが、ピアノはいつから弾いていらっしゃるのですか?
松下:幼稚園の年長、5歳からです。親の勧めで、近所のピアノ教室に通いました。
Q:初舞台は?
松下:ピティナ(※)のコンクールに数回出演したのですが、あまりよく覚えていなくて…。大勢の前で弾いた記憶があるのは、小学校の卒業式ですね。全校生徒・保護者の前で、合唱の伴奏をするので、相当なプレッシャーがありましたが…。
Q:どんなお子さんでしたか?
松下:小学校のときはまじめ、中学校のときは割とやんちゃでしたね。
Q:どんなやんちゃを?
松下:まあ、血気盛んな…というところでしょうか…(笑)。
※「ピティナ」…一般社団法人全日本ピアノ指導者協会。ピアノ指導者を育成する事業や世界最大規模を誇るピアノコンクール(ピティナ・ピアノコンペティション)を運営。
サッカーに打ち込んだ少年時代
Q:10代の頃はサッカーをやっていたそうですが…?
松下:小学校4年から始めて、中学校からは、ピアノをやめてサッカーに専念しました。
Q:サッカーを本格的にやっていこうと?
松下:はい。高校はサッカーをやるために選びました。
Q:ポジションは?
松下:小中がフォワード、あとはサイドハーフとか…前線ですね。足が速かったので、高校に入ってからは、サイドバックやサイドハーフをやりました。高校1年のときの記録では、全校生徒のなかで2番目に早かったんですよ。
Q:相当タフなポジションですよね。サッカーはなぜやめることに?
松下:ケガをして、離脱する期間が1、2か月あったんです。一回空白になって考えなおす時間ができて、サッカーだけやって高校生活を終わっていくのはどうなのかと思うようになりました。
Q:スポーツ選手にとってケガは深刻ですよね。
松下:はい。長く続けられるものがいいかなと思うようになりました。当時、ラジオが好きで、放送関係の仕事につきたいと思っていたんです。ラジオ局に就職するのではなく、なにかひとつ特技があればラジオ出演のチャンスがあるかと思って、音楽を…ピアノを始めました。結果的に、今ラジオをやらせていただいていますが…。
Q:どちらのラジオ番組ですか?
松下:ラジオ成田(83.7MHz)で、毎週火曜日の18:00~19:00、「Artist Residence Tuesday」という音楽番組を担当しています。
怒涛の音大時代
Q:ピアノに戻られたはいつですか?
松下:高校1年生の秋です。
Q:そこから音大に向けて?
松下:高1の時点では音大に入れるとは思っていなかったんです。高3の夏くらいに、音大に行く決断をして、国立音楽大学のジャズ科の先生が指導されている「BFジャズスクール」に受験対策で通うようになりました。
Q:そして、国立音大に合格されたわけですね。
松下:はい。実は現在、お世話になったBFジャズスクールの講師をやらせていただいているんです。
Q:松下先生のご指導はわかりやすいですからね! 音大時代はいかがでしたか?
松下:いきなりサッカー少年が入ってきたわけですから、まわりとレベルが違って、大変苦労しました。大学での授業に加えて、BFでジャズボーカルも習いに行きましたし。柏から立川への通学は遠いし、練習しなきゃいけないし、機材買うためにバイトもしていたし…。
Q:アルバイトもしていたんですか!?
松下:ええ、気を失って倒れて救急車で運ばれました。そのため、大学生活の最後の11か月は立川に住むことにしました。このとき自分の限界を知ったので、今は、やばいなと思ったらがんばりすぎないとか、寝るとか、基準がわかるようになりました。
Q:大学時代に印象に残っていることは?
松下:国立音大の教授で、世界的なジャズピアニストの小曽根真先生からいただいた言葉ですね…「人と比べない」「できないことは宝物」。先生のおかげで、1年生の後半から、昨日の自分より今日の自分がうまくなることだけを考えるように、頭を切り替えることができました。
Q:「できないことは宝物」とは?
松下:最初は意味がわからなかったんですが、できるようになってくると、できないことをできるようにする作業は意外と面白いと思えるようになってきたんです。できるようになる過程を楽しむ。未だにわからないことやできないことはあるので、それを楽しめないと、この世界で長くやっていくのは難しいのではないでしょうか。
ジャズの魅力とは
Q:なぜジャズを選んだのですか?
松下:最初はポップスをやりたかったんです。ポップスはコードを使って演奏しますが、難しいコードを使って演奏する技術がジャズにあるので、ジャズ理論を知ることによってポップスを演奏するのにいい影響があると聞いて、ジャズ科に入りました。でも、実際に音大で勉強してみると、自分にとってジャズの方が魅力のある音楽だと感じて、“ジャズのために”に変わって、気づいたらジャズの世界で仕事がくるようになっていました(笑)。
Q:ジャズの魅力とは?
松下:いろいろありますが、その時その瞬間しかできない音楽で、飽きないということですね。それに、自由なところも。こういう解釈じゃなきゃいけないというのがないので、常に自分の解釈でできる。でも、自由になるためには技術は必要で、努力をした分、自由になれる。自分がやったことを返してくれるものだと思うんです。
Q:自由とは?
松下:例えば、インプロービゼーションという、お互い曲を決めないでやるスタイルもあるんですよ。先日は、パレット柏で朗読に即興で音楽をつけたりしましたが、あれもジャズ。いろいろな形があるんです。
Q:ジャズの世界で活動の場を広げていくということですね?
松下:実は、ジャズに限らずボーダレスに活動したいと思っています。ジャズから派生してポップスやロックなどが生まれたので、ジャズをやることによって、いろんなジャンルを教えたり演奏したりできるんです。
柏の有名なチョコレート専門店「トライバルカカオ」さんの動画につけた曲もボーダレスな活動の例だと思います。
ジャズを学んだことが根底にあるので、ジャズピアニストと言っていますが、ぼくのイメージとしては、一音楽家なんです。
↓↓松下さんが音楽を担当しているトライバルカカオさんのチョコレート製造工程の動画はこちら↓↓
URL: TribalCacao トライバルカカオ 「チョコレートの作り方」
Q:思い出に残るコンサートは?
松下:一番スゴイなと思ったのは、昨年のミューザ川崎シンフォニーホールでの公演ですね。2000人のホールで、ドアがバーンと開いて、スポットライトがドーンとあたって(笑)、360度から拍手…という経験はなかなかできないですよね。やっていることは普段と変わらないんですけど。
またいつかやれるようになりたいなと。多くの方に聴いていただけたら、ジャズが存続する手助けとなると思うんです。
松下聖哉はどこに向かってる?
Q:10年後20年後はどうなっていると思いますか?
松下:どんな形になっているかわからないですが、音楽の仕事を続けていたいですね。長く続ければ続けるほど、進化していくから、その人しかできない技術になり、需要が存続していく…ということは続けるしかない。常に唯一無二の存在であることを目指していきたいです。
↓↓ライブハウスでの松下さんの演奏を聴いてみたいという方はこちらの動画をどうぞ↓↓
URL: Seiya Matsushita trio: Bolivia [Live at SHIBUYA Body&Soul]
取材を終えて…
「柏のどんなところが好きですか?」という筆者の問いに対して、「ちょっと歩いたら自然があること」という答えが最初に返ってきたのは意外でした。(そのあと、「レイソル」とか「ラーメン」といったキーワードが挙がりましたが…。)
現在は都内と柏を拠点に活動されている松下さん。
柏の魅力について、さらに「自然と都会のバランスのよい融合」と付け加えてくださり、その言葉は、様々なジャンルに変幻自在に入り込んでいく松下さんの音楽スタイルと重ね合わせられるような気がしました。
これからどんな風に進化し続けていくのか…目(耳?)が離せません!
松下聖哉プロフィール
- 1998年生まれ。千葉県柏市出身。
5歳からピアノを始める。
2020年3月国立音楽大学演奏・創作学科ジャズ専修を卒業。
現在はボーカリスト、ジャズピアニストとしての演奏、楽曲や歌詞の提供、自身の弾き語りライブや歌手、 ポップスバンドサポート、コーラス、ジャズシンガー、ボイストレーナー、ラジオパーソナリティーとして活動している。
また、“Pivo Music School"(代表・講師)、"Bf Jazz School"にてピアノ、ボーカル講師としてレッスンをおこなっている。
ピアノ/ボーカル オンラインスクール「Pivo Music School」
旧吉田家住宅歴史公園
- 【住所】千葉県柏市花野井974-1
【電話番号】04-7135-7007
【開館時間】9時30分~16時30分
【休園日】毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日以後の平日)
【入場料】大人:210円、高齢者:110円、大学生以下無料
TribalCacao(トライバルカカオ)
- 【住所】千葉県柏市あけぼの4-4-3 ルミエールジビキ101
【電話番号】04-7115-9434
【営業時間】11時~20時
【定休日】水曜日、第3木曜日
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※記事に掲載した内容は公開日時点の情報です。変更される場合がありますので、お出かけ、サービス利用の際はHP等で最新情報の確認をしてください
この記事を書いたのは…
「ちゃーりんぐ柏」代表石井雅子
柏生まれ柏育ち。編集者・箏(こと)奏者。市民活動家の両親が2015年前後に他界したことをきっかけに、柏に興味を持つようになる。2021年、柏の歴史スポットを自転車で巡る「ちゃーりんぐ柏」を立ち上げる(2022年市民公益活動団体登録)。2023年5月、補助金申請や情報発信、連携などをサポートする中間支援団体「ジセダイ歴史文化継承研究所」を設立、事務局長を務める。2024年8月柏に特化した観光会社「かしわグリーン観光社」を設立、代表を務める。